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星新一『古風な愛』・涙話9 [泣ける話]

妄想銀行

妄想銀行

  • 作者: 星 新一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1978/03
  • メディア: 文庫

星新一さんはショートショートの名手。今回の泣ける話はその中の一話『古風な愛』。新潮文庫の『妄想銀行』に収録されいます。この文庫には名作としてファンも多い『鍵』(※1)も収録されています。ネタバレなのでご注意ください。

ストーリーは至ってシンプル。電車の中で出会った男と女が恋に落ちます。女は男と結婚したがりますが、女の父がそれを許しません。

悩み、悲しみ、次第に憔悴していく女。とうとう男と心中を望むようになります。湖畔のホテルで男と共にクスリを飲み、幸福のうちに死んでいく女。しかし男は実はクスリを飲んでいませんでした。

女は自殺として処理され、男は自分のアパートに戻ります。そこに女の父が現れます。わずかに会話を交わし、女の父は金を差し出し、男はそれを受け取ります。

実は女は不治の病で余命がわずかでした。そこで父は、娘が幸せに死ねるよう、男に安楽死を依頼したのです。

という感じでひねりもあまりない、途中で予測がつきそうな話。なのですが、数多い星新一さんの話の中でも私はこれが特に好きです。

理由は、女の父と男の悲しみ方が非常に印象的だから。ラスト引用します。

そして、苦労して笑おうとしたが、それのできるわけがなかった。おれも同様だった。おれのからだじゅうで涙が波うっているようだった。だが、目からは流れ出してこなかった。おそらく、相手も同様なのだろう。

この淡々とした語り口が体中に詰まった悲しみをよく表現していると思います。だます。心中しない。おまけにお金も受け取る。でもその分、男はこれから悲しみに囚われるのでしょう。

また、男と共に死ねると思い、死の直前に女が見せる目。すみきった、美しい、幸福感にみちた目。オチが分かるとそれと向き合った男の深い愛情に涙がこぼれます。

星新一さんらしいシンプルな言葉が逆に想像力を誘い、そこから涙が生まれる作品。映像化とかしてないですかね。

※1 鍵:不思議な鍵を拾った男が一生をかけてそれに合う鍵穴を探す話。ラストの年老いた男の台詞が素晴らしい。

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コメント 2

コメントでは・・はじめまして・・です。
星新一の作品は、ほとんどと言っていいくらい読みました。
妄想銀行は、高校生の頃に読んだような。
だから、あの時は、難しいなあ・・と言う印象があったのを
覚えてます。
今なら、また、違った感覚で読めるのでしょうかね?
by (2006-09-22 20:01) 

けんたろう

>えすさま
コメント&niceありがとうございます。
星新一作品、私も学生の頃はオチ話として楽しみましたが
今読めば含まれた皮肉が生き、また違った味わいがありますよ。
是非もう一度手にしてみてください。
by けんたろう (2006-09-22 22:15) 

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