岩井志麻子『邪悪な花鳥風月』人工の生理的嫌悪 [本]
家庭、仕事、才能、美貌。あらゆるものに恵まれた女性作家が見下ろす陰鬱なアパート。そこから紡ぎだされる4つの恐ろしい物語。ホラー短編集です。
虚空の鳥:101号室に住むカヨ。過去と自身に全てを閉ざし”余生”を送るだけの人生だったが、隣にかつての人気アイドル”瞳つばさ”に似た女が越してきたことからその生活が変わる…
囚われの女の、籠の中でパンパンにふくれあがった妄想がはじけて腐る。そんな話。カヨのイメージは南海キャンディーズのしずちゃんで。
散らない花:捻じ曲がった生活を認めず、周りを嫌悪し続ける女。不釣合いな男に不安を感じる女。そんな女達を利用する男。捻じ曲がった関係が…
能天気なラジオDJの周りを無関係に渦巻く生臭い人間ども。でも小道具として使われる水中花、それ自体が古臭いです。
いずれ檸檬は月になり:こことは違うどこかで生活する女。なにもがずれた世界。女も少しずつずれてゆく…
幻想物語です。完全にわけのわからない世界ながら、うっすらこの世の影が見えていて、けっして読み辛くはない。だから最後のオチはいらないと思います。
黒い風の虎落笛:お互いを嫌悪する母と娘。男のせいで再び生まれた縁、導かれるのはやっぱり”親子”…
一見正反対のようで全く似たもの、お互いの半身であった親子。よくある話です。
以上4編。途中それぞれの話を繋ぐ作家自身の視点も入ります。生理的嫌悪感を抱くような描写が多いのですが、その核にあくまで人工的な臭いがするのでそんなに嫌ではないです。つまりよく言えばさらりと読める。悪く言えば印象に残らない。技巧的なんですよ。だって”臭”って字、ものすごく良く出てくるもん。これって一番簡単に「生理的嫌悪感」を与える字ですから。あと所々妙に古臭いのはわざとなんですかね?
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