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綿矢りさ『夢を与える』特別な本 [本]

大好きな作家、綿矢りささんの新刊。

綿矢りさ『夢を与える』

夢を与える

夢を与える

  • 作者: 綿矢 りさ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2007/02/08
  • メディア: 単行本

少女モデルとして多くの人の前にいた夕子は、ふとしたきっかけからブレイクし始める。しかし今度は自らのスキャンダルを招き、人前から消えていく。

これまででもっとも心をかき乱される本でした。あらすじのとおり、ストーリーは三十路オッサンである私に共感するところまるでありません。特別に鋭い表現が使われているわけでもないし、強烈な魅力を放つ人物が描かれているわけでもない。だから、だから何故だか全く分からないのですが、とにかく平静な心ではいられなくなる本です。

数ページ、あるいは数行読むたびに目を離す。そうでないと頭がおかしくなりそう。私は終始電車の中で読んでいたのですが、気がつくと必ず妙な表情を浮かべており、酷いときはうなり声をあげたりしてました。完全に変人です。

これはおそらく単に相性の問題なのかもしれません。綿矢りさの文章に、私は異常な反応をしてしまう。

ただし全く奇妙なことに、物語後半、ちょうど夕子が男と付き合いだした辺りからその感覚は突然無くなりました。それは作中の言葉を借りれば夕子が”夢を与える側から自分が夢を見、信頼の手を離した”ところ。別に作品の温度が変わるとか、そういうところは無いと思うのですが、これは一体どういうことなんですかね?同じ感覚を抱いた人っています?

お話は、先に書いたあらすじが全て。ここまであらすじが一言で書ける話も珍しいです。描かれる事件や登場人物がまるで”ドライで現代的な風俗の話”を意識して書かれている様で、『蹴りたい背中』で作者にグッと来た人にはものたりないかもしれません。事実、私も最初の方はそうでした。

ラブシーンの描写なんかがまさにそうで、あの、唇のひび割れを見て「うそ、やった。さわりたいなめたい、」と舐めたシーンを期待していると残念ながらどうしようもないほど拍子抜けすると思います。

そんなところから本作は前作に比べて評判が落ちるのかもしれませんが、私はあの自分の心がぐちゃぐちゃにされる感覚を忘れることはありません。この本と一緒に密室に閉じ込められたら、2時間くらいで発狂する。読みながらそんな感想がよぎる本が他にあるでしょうか。

時々綿矢りさという人は何かの擬態のような気がします。なにか途方も無い怖いものの、完璧な擬態。擬態は見破られるからこその擬態で、だから”完璧な擬態”ってのは矛盾しているのですが、そう思う。あまりに心がかき乱されるので、本作には呪術が練りこんであるんじゃないかとか、そういう妄想的なことすらよぎる。

……さすがに訳が分からない文章になってきたのでこの辺にしておきます。好きなものについて書くのってむつかしいですね。なんにせよ私の人生で特別な1冊です。

~追記~

サイン会、行って来ました。八重洲ブックセンター。並んでいたお客は年齢層も性別もバラバラ。イメージより年配の方が多かったです。綿矢さんは真っ白な格好、にこやかでぽややんとしていてイメージ通り。あまりお話は出来ませんでしたがとても楽しかったです。ただ私の前に並んでいたのがかなり濃いキャラの人で、綿矢さんよりその人のほうがよっぽど印象に残ってます。なんつーか、もろ”にな川”キャラ

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コメント 5

april_foop

さすがに同じ感覚を抱いたとはいわないけれど、この人の文章には"何かいる"というのは同感。それを言葉でうまく表現できないから、感想書くのも実はかなり苦戦してて、自分の記事もまるで言い当てられてないなぁと思ってんだよね。

そこそこの枚数だったけど、終始ブレることもなく、いい小説だったと思うよ。サイン会お疲れ。95%が男じゃなかった?
by april_foop (2007-03-04 00:28) 

初めまして!私も綿矢りささんの「夢を与える」、書評がとっても興味深くて、今日書店で購入しました!今から読もうと思ってるのですが、けんたろうさんのブログ、参考になりました~♪ すっごく楽しみです。
また遊びにこさせてくださいね^^/
by (2007-03-04 01:32) 

けんたろう

>april_foop
なぁ。この人の文章感想書くの難しいよな。ワイも自分の中の熱がどんどん暴走する一方で、全然収束出来なかったよ。
ちなみにサイン会は結構女性多かったよ。男女比7:3~6:4くらいだったぜ。ワイの後ろはもろ普通のお嬢さんだったし。でもみんな綿矢さんと談笑してなかった。えっらい事務的に進んでた。ワイは無理して話しかけたけど、センセ苦笑いングだったよ。周りの店員にはウケてたけどな。
>しらたまぞうさん
はじめまして。コメントありがとうございます。非常に偏った私の感想を参考にしていただけるなんてとてもうれしいです。またいらしてください。
by けんたろう (2007-03-04 22:09) 

今朝新聞でこの本を見かけ読もうかな?なんて思っていたところです。
変人ですか!私と一緒じゃないですか。
そこまで危ない変人では有りませんがね……。
若い子の文章は、不思議なきらめきがあります。
先日高校生の物を読みましたが、「恋愛」を語らせたら負けますよ~
かないません。若さのパワーですね。
(若ぶってる女より)
by (2007-03-05 18:24) 

けんたろう

>のんべいキャサリンさんありがとうございます。
いやー、本当に露骨に変人になるのはこの本くらいなんですけどね。
普通は、ちょい笑ったり泣いたりするくらい。
波長が合う人には異常に振れてしまう作家だと思います。
by けんたろう (2007-03-06 19:48) 

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