『松本清張・ゼロの焦点』陰々鬱々青天霹靂 [本]
名作と呼ばれる本は読んでおかなきゃ、といつも思っています。趣味にあわなそうでも、読んでみれば魅力がわかるかも。っつーことで松本清張です。 『ゼロの焦点』。
- 作者: 松本 清張
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1971/02
- メディア: 文庫
昭和33年。人の薦めでおとなしそうな鵜原憲一と見合い結婚した禎子。しかし突然、まだ何も分からないうちに夫が失踪してしまいます。夫の足跡をたどることで次第に見えてくる戦後を生きた夫と女たちの生活。重く、暗い曇天の北陸を舞台に、禎子は様々な情念を巡ります……
暗いです。その暗さたるや圧倒的。最近の本のように事件で暗いんじゃありません。12月の北陸の重さ、夫を失った禎子のまとう空気、そういったものが総じて頁に陰を落としています。
主人公の禎子にしても、新婚早々夫が行方不明になったのに、激しく感情が動かないんですよね。自分の感情の変化を、常に第三者的立場から見ている視点があるというか。
禎子は、事件の真相を知る為、結構活発に動いているんですよ。それなのに少しも情熱を感じさせない。情念というほうのがふさわしい感情に基づいて動いています。全編通してみても、禎子が本当のところ夫に愛情を抱いていたのかよく分かりません。
そういった重いボタ雪のような話の中で、突然強烈に事件が起こる。そこが凄く面白い。私のようなこわっぱが言うのもおかがましいですが、松本清張という人は緩急の付け方が本当に上手い。禎子の進む先に何があるのか。こんなに『先が読みたい』と思う本は久しぶりです。
事件自体がひどく目新しいわけでもない。登場人物達が魅力的というわけでもない。……”情念”を感じさせる、興味深い人物像ではありますが、例えばここでの登場人物達が出てくる別の話が見たいとは思いません。それでもこの小説はとても面白いと思いました。
事件の根幹をなす出来事は、全く勝手な男のワガママだと思うのですが……その点について誰も言及しないのも面白いです。そういう時代だったのですかねぇ。
戦後という時代。一口に語られますが本当に自分は何も知らないなと思いました。
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